渡彩覚書2
夕方、定刻通りに迎えの船が来た。
島内の諸々の営業は四時に終わるので、この一時観光客が波止場に集中した。
旅行会社が募っていた48ドルの白亜の客船を横目に、来しなと同じモーターボートに乗り込む。
海はけっこう深いが、水が透明なので底まで見える。
先から間近に見ていた熱帯魚に混じって、おそろしいことに二尺ほどの鮫も泳いでいた。
夜はガラパンへ。
その日は思いがけず、地元のお祭りであった。
目抜き通りドン突きの広場では、腰蓑をつけた半裸の乙女が、いかにも南洋的なゆったりとした音楽に合わせて伝統的なチャモロの踊りを踊っている。
25年前、サイパンを訪れた人の話によると、当時はこれから資本が入ってますます栄えていく一歩手前だったそうだが、現状を見るにどうやらその一歩手前の状態が四半世紀続いているようだ。
目抜き通りですら、あちらこちらの貸店舗が歯抜けの状態で、人通りも少ない。
が、その夜はどこにこんなに人がいたのだろうと思うくらいに賑わっていた。
要は現地の人なのだが、15歳以下の子供がやけに目立つ。
年頃になると進学や就職で島を離れる人が多いらしく、年寄りと子供ばかりが残っているのはどの国の田舎町でも同じことのようだ。
私たちは屋台で夕食を摂った。
各屋台はススペ地区を含む近郊のレストランやホテルが出していて、好きな惣菜を6つ選んで1パック5ドルというシステム。
美味しくて安いので、翌朝の分も買った。
次に多いのは青物店。珍しい野菜や果物が並ぶ。
思い出深いのはサイパンの珍果、銘「澤井さん」だ。
なだらかな瓢箪のような形、青りんごのような色、表面はトゲトゲで、日本では千疋屋でも見たこともない。
それは別の日に、全く観光者向けではないチャモロ人の店で買ったのだが、何度名を聞いても全く聞き取れず、空耳的に「澤井さん」と聞こえたので便宜上仕方なくそう呼んだ。
中を割ってみると皮は意外に薄く、果肉は白く繊維質なのにペースト状で、なんと表現してよいかわからない。
強いて言えばドリアンに似ているが、ドリアンほど油っぽいしつこくさもない。
香りは淡く上品で、味は甘酸っぱくてなかなかの美味であった。
続く
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